ビザの種類と雇用
※本ガイドは主要な事項をわかりやすく記載しており、一部の事項を省略するなどしています。ビザ申請にあたってはより詳細な制度の理解が必要ですので、別途ご相談ください。
最終更新日 2025年1月23日
当コラムについて
シンガポールでビジネスを行う場合や、日本人を含む外国人を雇用する場合、家族として駐在に帯同する場合など、適切なビザを選ぶことはシンガポールでの生活開始の重要なステップです。本稿では、主要なビザの比較を最初に行い、その後、特にEmployment Pass (EP) に焦点を当てて詳しく説明します。
ビザの種類にはどのようなものがありますか?
以下は、シンガポールで利用可能な主なビザの概要です。
ビザ種類 |
対象者 |
主な特徴 |
月収要件 |
Employment Pass (EP) |
専門職・管理職 |
高度なスキルを持つ外国人専門職向け。月額給与SGD6,000以上の場合、家族のDependent Pass(DP)申請も可能。 |
年齢・業界で異なる(後述) |
S Pass |
中堅スキル労働者 |
スキルを持つ労働者向け。業種により会社内のS Pass保有者の割合に制限あり。月額給与SGD6,000以上の場合、家族のDP申請も可能。雇用主はLevyと呼ばれる月次の税金の納付義務あり。 |
年齢・業界で異なる |
Work Permit (WP) |
一般労働者 |
主に製造、建設、サービス業などの労働者向け。DP保有者が労働するためにも利用される。雇用主はSecurity Bondと呼ばれる保証金の支払い、Levyと呼ばれる月次の税金の納付義務あり。 |
制限なし |
EntrePass |
起業家 |
シンガポールでのビジネス活動を希望する外国人起業家向け。雇用契約や特定の企業のスポンサーを必要とせず、個人がビジネスを立ち上げ、運営するためのビザ。 |
制限なし |
Personalised Employment Pass(PEP) |
高所得者 |
特定の企業にスポンサーされる必要がなく、就労先を自由に選択可能。転職時に再申請する必要がないため、キャリアの自由度が高い。 |
SGD22,500以上 |
Overseas Networks & Expertise Pass (ONE Pass) |
高所得者 |
複数企業に同時に在籍することや、新規会社設立が可能。特定の企業に依存しないビザであり、芸術、スポーツ、学術分野での顕著な成果に応じて月収要件が免除される場合もある。 |
SGD30,000以上 (免除要件あり) |
EP取得のステップや留意点は?
日系企業がシンガポールで日本人を雇用する場合、Employment Pass (EP) が選ばれることが多くあります。これは、EPが専門職や管理職を対象とし、日系企業のニーズと合致するためです。
以下では、EPに関する詳細な情報を項目ごとに整理し、申請プロセスを成功させるためのアドバイスを提供します。
1. 申請要件
EPの申請には基本的に2ステージの適格要件を満たす必要があります。
Stage 1: 基本給与要件
最低月額基準が年齢ごとに段階的に設定されており、これらを満たす必要があります。以下では23歳以下と45歳以上の区分の最低月額給与をピックアップして記載しています。これらの金額は、新規申請の場合は2025年1月1日から、更新の場合は2026年1月1日に期限を迎えるものから、改定後の金額が適用されることになります。なお、これらの金額はあくまで最低月額であり、実際の給与金額の設定においては、Stage 2で記載している1.申請者の給与のポイント要件や、2.申請者の資格・学位及び職歴を勘案して金額の調整が必要になることもあります。
・金融業界以外:
- 23歳以下:SGD 5,000~(改定後SGD5,600)
- 45歳以上: SGD 10,500~(改定後SGD10,700)
・金融業界:
- 23歳以下:SGD 5,500~(改定後SGD6,200)
- 45歳以上: SGD 11,500~(改定後SGD11,800)
Stage 2: COMPASS評価基準
Stage 2では、COMPASS (Complementarity Assessment Framework) を通じて以下のカテゴリの合計で40ポイント以上のスコアを獲得する必要があります。この制度はEP申請者がシンガポールの労働市場や経済にどの程度貢献できるかを評価するための枠組みです。
カテゴリ |
10ポイント条件 |
20ポイント条件 |
1. 申請者の給与 |
同業界のローカルPMETs(*1)給与の上位35%以上10%未満 |
同業界のローカルPMETs給与の上位10%以上 |
2. 申請者の資格・学位 |
シンガポールの資格枠組みに基づき評価された資格(学位など) |
シンガポールまたは世界トップ100大学の学位を持つ場合など |
3. 多様性 |
PMETsの人数が25人未満 Or 候補者の国籍が企業のPMETs全体の5%以上25%未満 |
候補者の国籍が企業のPMETs全体の5%未満 |
4. 現地従業員雇用サポート |
PMETsの人数が25人未満 Or PMETsの人数が25人以上かつローカルPMETsが20%以上50%未満 |
PMETsの人数が25人以上かつローカルPMETsが50%以上 |
5. スキルボーナス |
Shortage Occupation List(SOL, 必要技能職業リスト)上の職業かつ候補者の国籍が企業のPMETs全体の1/3以上 |
SOL上の職業かつ候補者の国籍が企業のPMETs全体の1/3未満 |
6. 戦略的経済優先ボーナス |
会社が政府機関の推奨を受けた場合 |
なし |
(*1)PMETs: Professionals, Managers, Executives and Technicians
留意点:
COMPASSの40ポイントを満たすことが申請の第一歩になりますが、業務内容・年齢・職歴から考えて、月給額が不自然に高額ではないか等、バランスを考慮する必要があります。専門性の高さを裏付ける資格を保有している場合は、申請時にその情報を記載することも可能です。また、月額固定給与がSGD22,500以上の場合など、COMPASSの適用外となる条件も設定されています。
2. 申請手続き
EPの申請は、シンガポール労働省(MOM)のガイドラインに基づいて進められます。
申請手続きの流れ
- 求人広告掲載について
- MOMが定めるFair Consideration Frameworkに基づき、原則として全てのEP申請前に、求人広告掲載を行うことが義務づけられています。これはローカル人材への雇用機会を確保するために求められているものです。なお、従業員が10人未満の場合は免除されるなど、特定の免除要件があります。
- 求人広告の掲載期間は14日間です。
- オンライン申請
- 申請は、MOMのオンラインポータル(MOM EP Online)を使用して行います。事前にアクセス権等の設定が必要です。
- 申請前に、会社の過去3年間の売上を、オンラインポータル上で登録完了する必要があります。なお登録から情報反映までに数日を要します。
- 申請時には必要書類を全てアップロードする必要があります(後述)。
- 審査期間
- COMPASSについては、ポイントが40点以上必要です。本コラム Stage2参照。
- 申請完了から10営業日以内には、MOMから結果の通知が来ます。COMPASSについての確認や追加資料が求められる場合もあり、そのようなケースでは、追加資料等提出から審査完了までに、さらに2~3週間を要する場合があります。
- IPAレターの発行
- 承認後、EP発行のためのIn-Principle Approval(IPA)レターが取得できます。このレターは通常は90日間有効です。有効期間内にシンガポールに入国し、EP発行に進む必要があります。
申請に必要な書類
申請時には以下の書類の提出が必要となります:
- パスポートのコピー
- 履歴書
- 学歴証明書
- 雇用契約書
- 会社の財務情報(必要に応じて)
留意点:
学歴証明書は英語翻訳されたものをご用意頂き、さらにMOMが指定する第三者機関による認証を事前に取得する必要があります。
EPの有効期限と更新のポイントは?
EPの有効期限は初回発行で1~2年、更新時は通常最長で3年となります。
留意点:
更新申請は有効期限の6か月前から可能です。更新申請時に必要な書類を早めに準備し、期限切れのリスクを回避しましょう。ビザ更新時には、ビザ申請情報と実際の支払金額の整合性や、それに関連して会社負担の手当の支払い方法が審査のポイントとなる場合があります。
Dependant’s Pass (DP) の取得の条件は?
EP保有者は、条件を満たす場合、配偶者や子どもに対し、シンガポールでの滞在が認められるDependant’s Pass (DP) を申請する資格があります。なお、DPの保有のみでは就労はできません。
- 条件:EP保有者の月収が$6,000以上。
- 対象:法的配偶者および21歳未満の子ども。
留意点:
DP申請には家族構成を示す公式書類(結婚証明書や出生証明書。英語版)が必要です。また、お子様については予防接種の証明書(シンガポール当局の指定フォーム)及びその事前登録も求められます。
まとめ:ビザ取得及び維持のサポート
シンガポールでのビザ申請は、事業運営を円滑に進めるだけでなく、役員や従業員の安定した生活を支える重要なステップです。実務では申請要件や注意点が多岐にわたるため、適切な手続きと計画が欠かせません。
特に、シンガポール政府のビザ発給方針は、突然厳しくなる場合もあるため、状況に応じたプロフェッショナルなアドバイスを日頃から受けることが、成功への鍵となります。
当事務所では、以下のようなビザ申請手続きを一括してサポートしています:
- 申請要件の確認:最新の政府方針を踏まえた要件の整理
- 必要書類の準備支援:申請に必要な書類の整備と確認
- MOMとのやり取り代行:手続きの円滑化
さらに、ビザ更新時に審査のポイントとなる事項や、Skills Development Levy(SDL)など、雇用に関して対応が必要な制度もあります。当事務所ではこのような実務的なポイントを押さえ、長期的な視点に基づいてアドバイスを行っています。
フェニックスでは、シンガポールでの豊富な経験と実績を活かし、お客様のニーズに合わせた柔軟かつ専門的なサポートを提供しております。どうぞお気軽にお問い合わせください。専門スタッフが親身に対応いたします。